日記

思っていることや思い出したことを書きます。たまに絵も描きます。

ねこのいる居酒屋

 

2022年9月末頃

 職場の先輩に連れられて行った居酒屋がすごくよかったのだ。店主の自宅の一画を店にしていて、庭先には屋外席があり、赤いちょうちんとうまい焼き鳥と、あとねこが4匹いる。聞けば、野良ねこが居着いてしまっているんだそうだ。案内された屋外席にはグルグル巻きの蚊取り線香が無造作に置いてあって、煙を嗅ぎながら黒板にチョークで書かれたメニュー表を見る。「ハッピーセット400円」というのが気になって、ハッピーセットってなにが出るんですか?と店主に訊いたら、すみませんそれホッピーセットです文字が消えてるんですと返される。

 先輩と飲んでいると、遅れてほかのメンバーがやってきた。先輩がてきとうに呼んでくれた知り合いたちなので私には初対面だったが、一足先に入れていたアルコールが私を社交的にさせた。というか、私はいつも初対面のときが一番社交的なのだった。屋外席はすごく開放的だった。線香の煙がゆらゆら空間を泳いで、眺めているといつもよりお酒が回るような気になる。トイレに席を立つと、室内までねこたちが上がりこんでいて自由だなと思った。店主は調理場から離れてたばこをふかしながら、注文のない時間をくつろいでいるようだった。

 23時を回ったところでアルコールの効いた頭ながらふと我にかえると、店主の子どもたちがまだお店をうろうろしていることに気づいた。ねこと戯れたり調理場の周りでおしゃべりしたりしていた。「家がお店」ってこういうことなんだなとふと思った。私にとってここはお店だが、子どもたちにとっては家であって、私たちはじつは家の一画にお邪魔してお酒やごはんを楽しませてもらってるんだなと。酔っ払いの大きい声を聞いたりお酒の匂いを鼻にかすめたり、夜遅くまでおいしいごはんを作る家族を尻目に過ごしたりするのが、この家の子どもの日常の一部になっているのだろうなと。

 金曜日なので、帰りの代行車はかなり混んでいるらしく来るのが一時間後とのことだった。待たせてもらう間お酒を楽しんでいると、店主が出汁のきいた温かいうどんを作ってもってきてくれたのでみんなでうまいうまい……と噛み締めながら食べた。やっと来た代行に乗って帰り、降車して家まで歩く3分程度の道のりで星がよく見えるのに気づいて、全然悲しくもさみしくもなかったけれど涙が出た。