日記

思っていることや思い出したことを書きます。たまに絵も描きます。

旅行日記2022.9 福井県


 恐竜博物館と日本海が見たくて福井県に行った。見てきた海について書き残す。海は三つ見た。旅のテーマソングは「怪獣のバラード」。

 最初に向かったのは若狭和田ビーチというところ。朝五時に起きて身支度をして始発に飛び乗る。JR小浜線、鈍行、ワンマンで人はまばら。ボックス席に座って外を眺めてみるとけっこう雲が多かったので、陽が昇ったら多少は晴れてくれるといいなあと考えていた。向かいの席の人のイヤホンからBPMの速い音楽が漏れ聞こえる。二時間弱ほどかけて若狭和田駅に着く。近くにコンビニがあったのでおにぎりとカフェラテを買ってから海を目指して歩く。七分くらい歩くと、鮮やかな青の「WAKASAWADA BEACH」の看板が見えてくる。看板の向こう側にはやけに白い砂浜が広がっていて、砂浜に沿って目線をさらに遠くに移していくとものっすごく青い海が見えたので、一人なのにわーっと声が出た。誰もいなかった。よく見ると遠くの海沿いの小道や釣り場には人がいるようだったが、浜辺にいるのは自分だけだった。えっいいのかなひとりじめして・・・・・・と思いながら波打ち際に行く。海、ほんとうにきれいでびっくりした。遠浅の海。とっても水が澄んでいて青い。沖に目をやるともっと深い青。波は穏やかでやさしい波音。静か。ひととおり肉眼で楽しんだらとりあえずバシバシ写真を撮った。動画も撮った。ある程度満足したら浜辺に腰を下ろしておにぎり食べたりカフェラテ飲んだりした。海辺で朝ごはん食べてるなんてすごい。来てよかったーと思った。米とカフェラテの組み合わせはひどかった。

 いい感じの流木に腰かけて海を見た。海に来たら本でも読もうかなと思っていくつか見繕って持ってきたうちの一冊を取り出して短編を一話読んだけど、なんで目の前に海があるのに本読まなきゃなんねんだと思って閉じてしまった。しばらく座って海を眺めたあとは浜辺を端から端まで歩いた。波打ち際はきれいなばっかりじゃなく、ゴミとか漂流物とか生き物の死骸がちらほら落ちている。波に乗って運ばれてきた海藻とか生き物とかが砂浜に取り残されてしまっている。五十嵐大介の『海獣の子供』に、浜辺は生と死が入れ替わる場所だとかなんとかいう話が出てきたことを思い出す。海に着いて一時間もするとだんだん人がやってくる。サーフボートで遊ぶ集団、体を焼くおじさん、子連れの家族。散策していると、ふと人が一人ちょうど浜辺に辿り着いていて、波打ち際で海を見ている。しばらくするとカメラを取り出して構え始めたので、自分と同じような目的で来た人かなと勝手に思った。ここいいよね、楽しいよね、いっぱい写真撮ろうよねと言いたかった。この海では三時間ほど過ごして電車に乗り、次の海に向かった。

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 ふたつめに水晶浜海岸。駅から出ているバスに乗って向かう。当たり前だがバスはローカルな場所にあるバス停を経由して進んでいくので、観光地を単に回るよりもそこの地域が感じられる気がしてなんとなく楽しい。四十五分くらいして水晶浜という名前のバス停に着く。なんて美しいバス停名だろ。ここで、乗車賃を払おうと思ったら小銭がなかった。両替しようとしたら千円札がなかった。両替機に五千円札を突っ込もうとしたら対応してない。やっばいと思って運転手さんにすみません、五千円札しかないのですが・・・・・・と言うと、帰りもこの路線使いますか? と訊かれる。はいと返すと、じゃあ帰りのバスで運転手に事情を説明して、足りないぶんを一緒に払ってくれればいいですよと言われる。よかったーありがとうございますという気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。小銭があるぶんだけ入れていきますと言って四百九十円だけ払って降車する。

 めいっぱい海を楽しむぞという気持ちでバスを降りるはずだったが思わぬところで失敗をしたのでもにょもにょした気分で浜辺に向かう。しかし海はきれいだ。若狭和田の海と違って人が多い。砂浜をさくさく歩いて端っこのほうへ行くとほとんど人がいなかった。東尋坊の近くだからか、ごつごつと切り立った岩の集まりが浜辺から続いていて砂浜とまたちょっと違う景色を見る。海の遠くのほうに原発が見える。カメラで遊んでいたら自転車で来たらしい人が写真に写り込んだ。その人は逆光で黒いシルエットになっていて、海と空との青のコントラストが美しい。ものすごくいい画が撮れたと思って人に見せびらかしたいくらいだったけど、見知らぬ他人の端末の中に勝手に自分が収められているなんてきっといい気分はしないだろうから削除。

 バスの時間がきたので浜辺をあとにした。再びバス停からバスに乗って駅へ向かう。バス停を出てしばらくすると運転手さんがマイクで話しかけてきた。行きで水晶浜バス停で降りたお客さんですか? に、はいそうですと答えながら、さっきのバスと同じ運転手さんであることに気づく。運転手さんは、おとな千円でバスのフリー乗車券が使えるんだということを教えてくれた。あなたは行きで四百九十円払ったから、帰りは差額の五百十円払ってくれればいいですよ、駅で降りたら精算してください、ということを伝えてくれたのだった。突然のものすごい親切にびっくりしてしまった。金をちゃんと払ってないやつに猶予をくれたうえにお得情報を教えてくれる! ありがとうございますと言って、また四十五分バスに揺られた。降りるとき、差額の五百十円を支払うと、運転手さんはバスのフリー乗車券を渡してくれて「明日まで使えますよ」と教えてくれた。本当にいい運転手さんだった。申し訳ない。ありがとうございます。

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 みっつめは三国サンセットビーチ。私鉄・えちぜん鉄道で向かう。曇りで少し風が吹いている。実はこのときかなりデカイ台風が近づいていたのだが、福井に影響が出始めるのは翌日からとのことだったので、えい!と電車に飛び乗った。えちぜん鉄道はデザインがかわいい。白の車体に青いラインが数本、ドア部分に鮮やかな黄色。ドナルド・ダックみたいな。駅舎も新しそうでモダンウッドないいデザインだった。不思議な駅名もいくつかあった。「太郎丸エンゼルランド」とか「西春江ハートピア」とか。三国サンセットビーチは夕日がきれいに見えるらしいので、夕方五時半頃着を目指して電車に乗ったのだが、あいにく台風の影響で曇りのため夕日はのぞめなさそう。終点の三国港駅で降りる。海を目指して歩くと、やっぱり道中で海釣りの人をたくさん見かけた。浜辺に着く。やっぱり曇りで空も海も暗く、夕日は見えない。けれども人がわりかしいた。なんか浜辺でヨガをやっている集団がいる。

 浜辺から灯台までの道があったので歩くことにした。海風が強い。道沿いに敷かれたテトラポッドに波がぶつかって飛沫を上げている。海が暗く揺れている。自分にとって海はいつもうっすら、けれどもしっかりと恐怖の対象である。若狭和田の海も水晶浜も穏やかできれいだったがそれでも漠然とした恐怖感があって、この三国の海ではその恐怖感がいっそう強まった。灯台までの道を歩いていくと、行く手に低めの壁があって、はしごがかけられている。壁には「危険」の文字。不気味で怖くて、ここまでにしようと思って引き返した。壁の向こうに続く道の先には何人かが釣りをしているのが見えて、この危険のはしごを越えていったのかな、すごいなと思った。

 浜辺に戻って腰かけながら海を見る。すっかり陽は落ちて波は白灰色をしている。行き損なった灯台が遠くで緑色に光っている。暗いし風は強いし、先に行った二つの海のような明るさ華やかさは全然ないのだが、なんとなく海って結局こんなだよなーと思った。暗くてちょっと不気味だったけどとても落ち着いた。もちろんちらほらと人がいることも安心を生んでいるのだろうけれど。さっき歩いていた灯台までの道の途中で三人組の女の人たちが座り込んで、ビニール袋から缶やつまみっぽいものを出して楽しんでいる。サンダルのおじさんがゆるりと電柱に背中を預けてスマホを海に向けている。絵になる。陽が落ちてみんな顔のわからないシルエットになって風景に溶け込んでいる。影絵みたいに見える。やがてヨガの集団がメニューを終える。みんなでヨガマットを片づけて集合写真を撮って楽しそう。浜辺のすぐそばに温泉があるので入った。若狭和田で焼けた肌がお湯に染みて痛かった。風呂上がりにセブンティーンアイスの自販機を見つけて、プレミアムの高いのを買って食べた。自分で稼げるようになってずいぶん経つが、お金をある程度自由に使えるとなったときにやりたいことがこういうアイスのちょっと高めのやつを買う、みたいなことばかりだなと思う。

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